2017/05/04

【読書日記】大江健三郎 見るまえに跳べ



2017-22
大江健三郎 見るまえに跳べ(新潮社版 第12刷)
読了

読み終えた。
三つ目に収められている「不意の啞」は
たしか以前読んでいる。
米軍の通訳をしている日本人の靴が紛失し、
村人が隠したのではないかと一方的に疑いをかける話。
逆上する通訳は村人からも、米軍兵士からも相手にされず
その振る舞いが滑稽にすら感じられる。
村人は直接弁明する訳でもなく、
でも、殺された村人の復讐のために通訳を殺害する場面では
言葉を発しないということが、とても不気味な印象を与える。
この、特定の個人でない「集団の不気味さ」とでもいう様な感覚は
他の大江さんの作品のなかでもしばしば顔を出す。

「喝采」は「暗い川おもい櫂」に通ずる感覚を含んでいると思う。
同性愛に溺れる主人公が、とある出来事をきっかけにして
普通の男の様に女も愛せる、といちどは自信を持つのだけれど、
結局それは勘違いであって、
一度は別れた同性の情人のもとに戻ってゆくという話。

「戦いの今日」で面白いと感じたのは
弟の心理的な「立場」の移ろいだった。
弟は憲兵に連れてゆかれる兄を助けられなかったために後ろめたさを抱く。
それを取り戻す(名誉挽回の)ために脱走兵を匿うことに
積極的な姿勢を見せたかと思うと、
いざそれを行う段になってみると恐怖心でいっぱいになってしまう。
それでも脱走兵との暮らしに慣れてしまうと、
今度は米兵に親近感すら抱く様になる。
稚拙な純情さでまったく汚れを知らない。
米兵にドブへ飛び込む様に言われても反抗することもできない。

大江さんのこれらの小説は独特の肌触り感があると思う。
とても黒くて重く、引き摺られる様なもの、とでも言ったらいいのか、
その黒いものには生理的に厭らしさを感じてしまう様なものも入っていて
それは以前「芽むしり仔撃ち」を読んだ時にも感じた。


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